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セラミックガール ズ ブルース 「お客さん、客を引っ張り込むなら割り増しをもらうよ」とフロントの男が言った。 「泊まるだけだよ。いいから早くカギ渡しな。ほら、とりあえず部屋代1週間分だ」 少女はカギを受け取ると、エレベーターのない安ホテルの3階の部屋におさまった。 「シケた部屋だな」と言ってドサッとベッドに横になった。 あの日、研究所を脱走してから少女は行く当てもなく、いろいろな街を転々としながらその日暮らしを続けていた。 洗濯をしていない服が気持ち悪かった。 有り金は部屋代で消えてしまったので、とりあえず洋服代を稼がなければならなかった。 日も沈んだし、そろそろ出かけるか。 少女はバスルームの鏡で髪を整え、右手で軽くかき上げた。 この街ならカモはすぐに見つかるだろう。 「ネエチャン、このへんは物騒だからおれが客を紹介してやろうか?」とフロントの男が声をかけてきた。 「大きなお世話だよ」 少女はそう言い捨てて、表通りをブラブラ歩き出した。 どの街も治安の悪化によって多かれ少なかれ荒れていた。 5分と歩かないうちに、少女の期待通りの男が3人近づいてきた。 おやおや早速か。でもここじゃ人通りが多いな。ちゃんと人気のないところに連れて行ってくれるんだろうね。 「お嬢ちゃん、どこいくの?」 「一人で商売か? いい度胸だな」 少女は精一杯怯えた振りをして、逃げる素振りを見せた。 男たちは少女の腕をつかむと、そのまま近くに止めた車のなかに引きずり込み、急発進させた。 「女一人でこんなとこフラフラ歩いてて、おめえ、頭は大丈夫か?」 「俺たちを恨むなよ。自業自得なんだからな」 「俺たちが面倒みてやってもいいぜ。おまえならかなり稼げるぞ。でも、その前に商品の具合を試してみないとな」 男たちがいかにも楽しそうに笑った。 バカなやつらだ、生きて帰れるかもわからないのに。 少女はそう思うと、薄笑いをさとられないように下を向いて顔を隠した。 右側に座ったリーダー格の男が、少女の胸を手荒に揉み始めた。 それを見た左の男も、少女の太ももをしつこく撫でまわした。 「もうじきだからねぇ、ここでイッちゃだめだよぉ」 また男たちが笑った。 そろそろ少女が身体中を触られることに我慢できなくなってきたころ、車が止まった。 程よく人気のないスラムの一角だった。 二人が両脇から少女を抱え、一人が後ろから口を押さえて空いた部屋に運び込んだ。 慣れた手際だった。 そこら中に酒瓶とタバコの吸い殻が転がっていた。 少女は床に直に置かれた古いマットレスに投げ出された。 その衝撃で大量のホコリが舞い上がった。 ホコリは、窓から差し込む街灯の光を浴びてキラキラと輝いた。 少女は、その光景に心を奪われた。 そして唐突に、穏やかな海と潮風の香りが甦った。 パパやママと小さな島まで船で行ったときの海も、こんな風にキラキラ光ってたな。 ドライブしたりショッピングしたり、3人で行ったあの旅は楽しかった。 「どこ見てんだよ。おめえ、口がきけねえのか?」 男が少女の髪をつかんで、無理やり上を向かせた。 その瞬間、男たちには少女の姿が目の前から消えたように見えた。 男たちは、何が起きたかを理解する前に、床にころがって痙攣していた。 返り血を浴びると面倒なので、いつもはかなり手加減する少女だったが、今回は抑制が効かなかった。 少女は頬に飛んだ血を袖でぬぐうと、手についた血をマットレスにこすりつけて拭いた。 お触りが高くついたね。汚い手で触りやがって。 罪悪感はなかったが、やりすぎたと思うと少し後味が悪かった。 マットレスに座り込んで床に広がって行く血だまりをぼんやりと眺めながら、 少女は、ふと、こんなことはもう終わりにしたい、と思った。 痙攣が止まったのを見て、3人のポケットを探った。 財布は全部で8つあった。 そこから現金だけを抜き取ると、財布は床に捨てた。 悪くない金額だった。 新しい服と下着、若干の食料を買って、少女はホテルに戻った。 「よく稼いだじゃないか。かわいい顔してなかなかやるな。今度おれにもヤらせてくれよ」 少女はうんざりしてフロントの男を無視した。 シャワーを浴び、髪を洗って、新しい下着をつけた。 髪が乾くのを待って、ベッドに入った。 ソフトセラミックのトランスボディが疲労することはないが、脳は眠りを必要とした。 少女は先のことはなるべく考えないようにしていた。 自分がこの先どうしていいのか、見当もつかなかった。 そのかわり、島で出会ったあの少年のことをよく考えるようになっていた。 いま、どこにいるんだろう。 あたしも広域特定生体探索機能が使えればよかったのに。 明日から探してみよう。 まずはあの島からだ。 白い砂浜と島を囲む青い海を心に浮かべると、穏やかな気持ちになった。 身体をまるめて小さなあくびをすると、少女はすぐに眠りに落ちた。 久しぶりの安らかな眠りだった。 了
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2006.09.02 22 48 ビアンカ 「ロードオブザリング」大好きで、再放送の度テレビにしがみついています。他に「ロードス島戦記、水星ユ茗さんの「エチエンヌ」シリーズが好きです。こんな私ですが、よろしくお願いします。 野良(--) ようこそおいでくださいました。よろしくおねがいします。 ロードオブザリングは真の主役はサムだと思う野良です。 ロードス島って久しぶりに聞いたなぁ。まだ続いてるんだっけ?09/03 12 24 ビアンカ ロードオブザリング>あの終わりからするとて主役はサムって感じですよね。 ロードス島って、まだやっているんですか?09/04 22 08 水上 える よろしくおねがいしまああす( ̄∀ ̄)ノシ ロードス島のロードとロードオブザリングのロードは同じなんでしょうか!(なにそれ あ、再放送とかやってるんだ。ロードオブザリング、そろそろ見てみようかなあ…(遅い09/04 22 08 凩 時雨 初めましてー。 ロードオブザリングは、原作でのレゴラスとギムリのコントみたいな会話が好きです(アレ?)。 ロードス島戦記は……実は見たこと無かったりしますorz09/05 14 15 ビアンカ ロードス島戦記は、内容がロードオブザリングに似ているかも・・。09/10 22 48 abendrot 名乗り遅れた夕です。よろしくお願いします。 ロードオブザリングは原作文庫、英語版、完全版(?)DVDとドップリはまってました。ちょっとだけ作者のことも調べたり(笑 ロードス島って、指輪と内容似てるんですかー。知らなかった^^;09/11 22 32 ミカヅキX TLOR、特別版三本立てを映画館に観にいった事があります。 やっぱりガンダルフ先生が一番好きです。 ロードス島戦記は、続編がまだ完結してないような・・・。 灰色の魔女の設定が好きです。05/05 12 27
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しかし彼の耳は生き延びて、男が怒鳴るその声をはっきりと聞いた。けれどもそれが自分に向けられている 気がまるでしなかった。 「どうや、思い知ったか!」 男は自分の目の前で今は無様に圧倒されている、全ての腹の立つ、自分に恥をかかせた人々や物事に 向かって、そう怒鳴りつけた。 実際のところ彼らの顔や一つ一つの出来事はほとんど忘れてしまっていたが、先の彼の拒絶をきっかけに、 漠然と、常に自分の人生がうまくいかなかったことを思い出して、自分をこんな風にしてしまった、自分を この場所まで導いてきた全てのめぐり合わせというものが、ふと強烈に憎くなったのだった。 しかし今の自分には金があり、酔いに酔ってこれ以上ないほどに強くなっている。男には今度こそ自分を 抑えつけてきた目に見えないものを、逆に捻じ伏せてやれる、そのような自信があった。 「馬鹿にしやがって、畜生」 男は口汚く吐き捨てると、興味を失った彼の身体を他所へ放り投げた。どさりと地面に崩れ落ちるのと 同時に彼は息を吹き返したが、最初の呼吸は蛇腹の空気入れを踏んだような音がした。心臓の動きに合わせて 鼓膜が震え、巨大な機械が何かを断絶するような音が繰り返し聞こえる。男の手が離れてしまっても絞めつけ られていた喉はゆっくりとしか開かないので、すぐには楽になれなかった。 嘔吐(えず)くような咳の音が深夜の路地に響く。 「……どうするんや」 ぐったりと地面に横になって息を整えている彼に向かって男は言った。今まで通りすがりの人間のことなど 忘れていたくせに、酔っ払いは脈絡なく先の諍(いさか)いを蒸し返すのだった。 彼が施したお粗末な看病やポケットティッシュの礼に男が差し出した得体の知れない現金を 受け取るか、否か。 「……受け取ります」 彼は咳が出ない隙を見計らって早口に言った。 「そうか、それでいい」 男は彼がよろよろと壁を伝って立ち上がるのを手伝い、そのまま手をとって重ねた紙幣を握らせた。これで 満足だった。すると自分の思い通りになってくれたこの優しい人とこれっきりになってしまうのが途端に惜しく なって、何か約束をしたくて堪らなくなった。酔っ払いは自分の欲望に対して素直なものなので、先ほど自分が 首を絞め殺そうとした相手を脅すのではなく、しみじみと懇願した。 「俺は敵が多いからな、これを受け取ったら、あんただけは俺の味方になってくれよ」 彼は黙って肯いた。打算のために従順な姿勢を見せているわけではなかった。 暗がりで、一方向からさ青(お)い光が強く差しており、血塗れの男が彼を置き去りにして目紛るしく立ち振る 舞う、これは映画だった。 その中で流れる時間に対して自分が無力であることを、彼は既に思い知らされている。だから最早賢しらに ものを考えて疑ったり抗ったりしない。 そうして彼はただ子どものように光る方へ吸い込まれてしまっているだけなのだ。 そこで行われたことのいくつかは次第に忘れられるが、あるものはたとえ記憶の中で姿形が溶けて しまっても、いつまでも彼に残り続ける。
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464 :NPCさん:2010/12/01(水) 12 55 01 ID ??? そういうのは真なる困と同卓したことがないから言える台詞だ ちょっと逆レイプシチュをしたいからお願いしますって女性PLに言ったら 他の面子からも消えろ、市ね、キモいと罵詈雑言でサークルから追い出された 俺の経験からするとどうぶっちゃけても困は譲らない 465 :NPCさん:2010/12/01(水) 12 56 12 ID ??? 464 日本語でぉk 466 :NPCさん:2010/12/01(水) 12 56 40 ID ??? 464 流石真性の困ったちゃんは言うことが違うな 467 :NPCさん:2010/12/01(水) 12 59 34 ID ??? 464 いやまぁお前と同卓したら多分そういう意見がここに上がってくる事になると思うがw 468 :NPCさん:2010/12/01(水) 13 20 17 ID ??? うちのサークルの女性ならノリノリでやってくれそうだなぁ 469 :NPCさん:2010/12/01(水) 13 59 49 ID ??? せめて踏んでくれ、罵ってくれ程度なら…… やっぱ駄目だな! 470 :NPCさん:2010/12/01(水) 14 07 47 ID ??? 公式コンベでそれやったヤツいたな 471 :NPCさん:2010/12/01(水) 14 56 34 ID ??? 468 紹介してください>< そういう希有な人材は、世界を救うと思うの スレ262
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imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 作者:しっぷぅ 作品概要 後でここに記載 ジャンル 作品を読む
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その瞬間、街灯の柱の陰から、倒れ落ちる最中の人間の半身が光の下に突然ぬらりと現れて、しかし その身体は化け物じみたでたらめな身のこなしでやがて平衡を取り戻した。 弾かれたように彼は短く声を上げ、息を呑んだまま剥き出しの目でその男に見入った。旋毛を向けるように 項垂れていた男が鬱陶しそうに右目を拭い上げたとき、割れた額から湧き出した血潮がその顔中をべったりと 濡らしていたからである。 男はよろめきながら大股で踏み込んできて、立ち竦んだ彼は瞬く間にわずかな距離をつめられてしまった。 近付くと酒の揮発する感触が分かるほど男は相当に酔っていたが、やたらに陽気らしく、すいませんと言う 声は愛想が良かった。 「血が目に入って前が見えへんかって」 そう言った側から男は手のひらで目蓋を擦り、しきりに瞬く。違和感があるのは、そこに鬱血してできた 赤紫色の腫れ物が目を圧迫して半分隠していることにも原因があるのだろう。額の他にも同じような腫れ物や その上の小さな切り傷が顔中に散らばっていた。 「何か拭くものを持ってませんか」 ふくもの、と彼は気が抜けたように繰り返し、ポケットに駅前で受け取ったままにしていたティッシュが あることをゆっくりと思い出していた。恐る恐る手を伸ばしてそれを渡してしまうと、男は嬉しそうに礼を 述べて、本当に目や口の周りだけ拭って全く見当違いのところを止血のつもりで押さえていた。 しかし手応えがないことに気付いたのか、"酔っているのとあちこち痛いのとでもうどこから血が出て いるのか分からない"と彼を笑わせたそうに独り言をいって、斑点のついた紙で生乾きの指を拭った。彼は この後自分が何を求められるのか予感してどうしてもそれを拒絶したかったが、その方法を思い浮かべている 暇はなかった。 「悪いけど見てもらえませんか」 そう告げて、血を拭う為に彼が与えた紙を、男が同じ意図で差し出したのが先だった。彼は緊張で動悸さえ 感じていたが、怪我人の切実な頼みを断ることはできなかった。けれども男の目つきに痛みなど読み取れず、 自分の臆病さをからかってにやにやといやな笑いを浮かべているだけのように思われてならなかった。彼は むしろ、だらだらと血を流す紫色に腫れ上がった顔をまだ何度でも殴られる光景や、その手に受ける感触が 独りでに想像されて、腹を立てる余裕もないほどに寒気立っていた。 身体を震わせて拳をきつく握りしめると、寒さで感覚が麻痺した手の皮が乾いて引きつっていた。 それを覚悟に男からまだ使っていない紙を受け取って引き出し、ここですね、と言いながら分厚く重ねて 血潮の溢れ出る額の傷口に触れる。白い紙は見る間に赤黒く滲んで貼りついてしまい、到底この量では追い つきそうになかった。ぐっしょりと濡れた紙片から血潮の鉄の臭いが立ち昇り、彼の喉の奥をくすぐって軽い 吐き気を催させる。 「……あの、救急車呼びましょうか、それ縫わなあかんような怪我やと思うんですけど」 「いや、そこまでしてもらわんでも大丈夫です、朝になったら自分で病院行けますから。それにしても世の中 腹の立つ奴もおればこんないい人もいてるんやなぁ」 男は自分が四人を相手に喧嘩をして、最初の一人は倒したがその後押さえつけられてひどく殴られた挙句頭を 壁に打ちつけられて、こんな怪我を負ったのだということを興奮して喋りたてた。 大丈夫なわけがない、と言い放ちたくなる。下らない話を聞いている内に、男が本当にただの酔っ払い なのだと彼はいよいよ思い知らされて、あの気味の悪さが完全に醒めかけていた。 この男の半身が何もない所から突然現れたときには、ひとつの完成された光景を踏みにじった人間の末路を 見る覚悟さえあったのに。彼はこれ以上男に構うのが煩わしくなった。 翻弄されるほどの恐怖というのは、安全な所から眺めると、非常に面白いものである。それはある種の 人間がどうしようもなく惹きつけられて執拗に抉り出そうとしてしまう、陰気な好奇心の対象だった。 そのように感じられるのはこの男のおかげだったが、光に曝されて不気味な気配がさっぱりと抜け落ちた この人に、これ以上感情を揺さぶられはしないだろうと彼は思った。夢中になっていたものを台無しにされた ことも確かだったので、もうどこかで勝手に行き倒れてくれ、他の人間に何とかしてもらえ、と当たり 散らしたい気になっていた。 「……そうですか」 彼は相槌を打つふりをして自分の仕事についての男の話を断ち切り、できるだけ残念そうに、もう 行かなければならないのだと告げた。 「あぁ急いでるんですか、でもちょっと、待って」 男は彼が歩き出そうとするのを察知し、その前に腕を掴んで止めた。危害を加えるつもりではないと 分かっているのだが、この男に腕を一本押さえつけられたことに、彼は未だに胸騒ぎを覚えずには いられなかった。 しかしポケットを探る為にその手はすぐに離された。
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夜が更けて一層空気が冴え渡っている。 彼はこの辺りにひと塊りだけ残っている昔ながらの木造家屋の壁や門構えの間を猫背気味に、腹の底に力を 込めるようにして歩いていた。木の素材が光を吸って地面は暗く、ぽつりぽつりと植えられている街灯が頼り だった。そこは人が擦れ違えるだけの狭い路地で、民家が少しずつせり出したり引っ込んだりしているのに 沿って伸びているので、わずかに曲がりくねっていて先が見えなかった。そのせいで奥行きの距離感が つかめず、いつもここを通るときにはとても長い間歩き続けているような気がした。 真っ直ぐ進む他にやることもないので、やはり彼は自分が書くものについて考えずにはいられなかった。 今まで何度も別の映像を言葉に置き換えてきたが、まともな結末を与えられたものは一つもなかった。 きちんと終わりを迎えるべきであるし、終えられないことを情けなく思う気持ちはあったが、しかし そのことで鬱々としてしまうのはどうしてなのか。 はじめからこれは自分の執着心を慰めるための作業に過ぎないのではなかったか。そう割り切ってしまう ことができないのは、中途半端なものを嫌がる性質のせいだけではない。ものを書くときに働くあの勘を 燻らせておきたくなかった。 結末さえあれば自分の書くものは何か意味のある作品になるに違いないと思い込んでいた。だから小説で 身を立てたいだとか、書いたものを人に評価されたいとかいう浅はかな展望を未だに捨てられないのだった。 けれどもあんなものは小説と呼べるような代物ではないと分かっている。はっきりとした展開も主張もない、 ある個人の妄想をありのまま書いたものを誰が面白いというのだろうか。 彼は苛立って力任せに歩きはじめていた。何となく息苦しくなって、きつく噛み締めていた奥歯を ぎこちなく緩めて喉の底から溜め息を吐く。しばらくして、この程度の薄っぺらな期待は誰でも持っているし、 それをさも深刻そうに思いつめるほど自分の野心の強さをさらけ出すことになりそうだと思い直した。これは 彼には結論の出せない、考えても生活の妨げにしかならない類の論題だった。 彼は頭を切り替えるために、深くゆっくりと瞬いた。 そのときふっと風が通り過ぎて、二月の深夜の寒さと空腹を堪えようと俯いていた彼の鼻先を、何か白い ものが掠めていった。 それは紛れもなく彼への誘惑だった。 彼は惹きつけられるままに立ち止まり、そして見上げた。 すぐ先にある家の、頭の高さほどの塀の内側から、ぽたぽたと点を置いたように花をつける梅の枝が 零れ出て、ちょうどそこに寄り添う街灯にさしかかり、その光のさ青(お)い陰に、梅の白い花が染められて、 枝は透明な骨のように、物凄くされているのを。 彼は自分と梅の木の間の数歩の距離がこの光景を成しているのだと感じて、自分が"けれども彼女らが ここで永遠に立ち尽くすだけの存在になれないことは、一瞬彼女を通り過ぎた幸せがもたらした悲惨である"と 書いたことを思い出した。そして彼女がそうするはずであったように、彼もまたすぐに再び一歩 踏み出していた。
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※井伏鱒二「夜ふけと梅の花」をもとに書いたものです。 "ふと振り返ると、両側から押し迫られて狭く薄暗い、これまでやって来た道のりの先だけが針の穴のように わずかにひらけていて、明るい海が見えた。とても鮮やかといえるような景色ではなく、咽返りそうな白い光の 中にあらゆる境界が溶け込んでいて、うっすらと埃を被っているようであり、眺めているとこちらの意識まで ぼんやりと濁ってしまいそうである。 この光景に懐かしさを感じられるほどの経験など彼女にはなかったが、どうしてなのか、これらをもうじき 手放さなければならないことが酷く耐え難く思われた。もちろん彼女は行く。行かないということに現実として 耐えられるはずがなかった。 けれども彼女らがここで永遠に立ち尽くすだけの存在になれないことは、一瞬彼女を通り過ぎた幸せが もたらした悲惨である" 彼はもうこれ以上書くことなどできないくせに、しつこく黒い芯で紙を突いて、何かの拍子にこの続きを 思いつけるつもりでいた。布団の中で腹這いになっているので頭は火照るのに、白い紙の上へ晒した指先 だけが冷え固まっている。 これは子どもを生むことを恐れる若い女が、自分の娘を当たり前に慈しみながら二人で坂道を上っていく という幻を見る話なのだが、幻から覚めた彼女がどこに居るのか、何を思っているのかという件になると、 彼の目の前は真っ暗になるのだった。 彼が書くためには映像が必要だった。それは光景を見渡せる全体像であったり、人物の視野だったり、 映像でありながら聴覚や触覚そのものであったりするのだが、これらの別々のものが、既にあった時間の ように、目蓋の端辺りできちんと流れていくのだった。 この映像のようなものを彼は放っておくことができなかった。映像の原形はふいに思い浮かんだり、 眠っているときの夢であったりするのだが、一旦その存在を意識すると、忽ち完成させることに偏執して しまうのだ。それは際限なく映像を繰り返していく内に作中の人物と一体化し、いつか経験した自分の感覚で 肉付けしていくという終わりのない作業のはじまりだった。 彼は偏執から逃れるために、何とかして再現可能な形でこの映像を頭の外に取り出さなければならなかった が、逆に映像が彼にそう要求する力を感じることもあった。 そこで彼はごく自然に書く(文字にする)という手段をとった。そのまま映像にすれば良いのかも しれなかったが、あの光景をそっくり作り上げるために何をするべきなのか分からなかった。けれども映像を 自分の言葉に置き換える作業では、彼は自分の持つ勘を働かせることができた。使いたくない言葉を切り捨て、 ふさわしいものを選び取る基準を持っていた。段階を踏むと現れるささやかな仕掛けを考えることができた。 しかし筋道を立てて書きはじめるわけではないので、いつもこうして映像がぶつりと途切れてやむなく 終わる。形が残って再び辿れることが分かると彼の執着は慰められて、敢えて思い出さなければ意識に上って 独りでに繰り返したりしなかった。 低い天井に吊り下げられた蛍光灯から、じりじりと虫の鳴くような音が聞こえる。夜中の二時を回って 目蓋も半分に垂れ下がっているのだが、彼はそれ以上に空腹感が耐え難くなっているのに気付いた。痛いのでは ないけれど、本当に飢えているとしか言いようのない辛さだなぁと言葉の妙に感心する。こんなときに限って 家の中に腹が膨れるようなものは何も残っていなかったので、彼はやけになって、このまま朝まで空腹を抱えて やり過ごすよりは、どんなに寒くても今すぐコンビニにでも出かけていって温かいものを食べて満足したい 気になった。 まだ面倒臭がる気持ちも多分にあったが、彼は自分でも驚いたことに、それから床に転がっていた眼鏡を かけてのろのろと身支度をはじめていた。